降る音や 耳もすう成る 梅の雨
ただ教科書の文字を写しただけのノートをまっすぐ線が通る。その線は他より少し薄くて、反対側からでは書きにくかったようで隣にまわってきた。
「『すう』は『酸う』でここでは梅の実のように酸っぱくなることと掛けていて……」
線を引いたひらがなの隣に綺麗な漢字が書き添えられていく。一つ頷いてこちらのペンをまた走らせる。いつもの特訓の甲斐か少しのヒントでだんだんとわかるようになってきた。高張は俺が成長したからだというけれど、教え方が俺に合わせてわかりやすくなっているのもあると思う。
つまり、雨季はユウウツだという話だろう。その感覚には日本のものと通ずるところがある。空が不機嫌になっていて、その空気が降り注いでいる。こんな日には外で体も動かせないから、小さい時から好きではなかった。
雨の降るだけの放課後をチャイムが割って入る。この空間を分つ音。どちらからともなく教科書を、ノートをカバンにしまってどうでもいい話をする。
曰く、雨は結構好きだ、と。雨の降る音をぼおっと聞いているのは落ち着く、だの湿ったアスファルトの独特な匂いが気に入っている、だの。みずたまりに雫と足跡を弾ませながら傘を傾ける。
俺はあまり好きじゃないんだ。あぁ、大変なことも多いものね。ウン、それに
少しかがむと目の高さにくる傘を指で押し上げる。
これが邪魔であまり目が合わないから。
少し寂しい
そう言うと少し視線をさまよわせたあと、自分のそれを畳んで隣に入ってきた。せっかく邪魔がなくなったのに、顔を上げてくれないと目が合わないだろう。