なんだか可笑しい夏の夢

例えるならそう、雲の中にいるような。

 

やけに重たい空気に耐えきれず頭がすべり落ちる。教卓の声も今日はどこか間延びしているようだ。机に立てた掌に顎を乗せなおして気が付く。隣の相棒も教科書に目をおとしているふりをして舟をこいでいた。そうだ、そうだ。俺はこんなこそこそ寝る器じゃない。高林は筆箱の一つも出していない机に堂々と腕を組んで頬を乗せた。

 

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茹だるような午後。直接の日差しはないものの分厚い雲が熱気を閉じ込めている。週も真ん中、どうも気のゆるみやすい日である。こんな日は昼寝がいいわ。脳内のハリウッド女優はレジャーシートを広げていた。そこに影を落とすため、瞼を押し下げようとする悪魔を振り払いながら頼人はノートにミミズを走らせる。寝てはいない。寝てはいないが、耳から入った音声がどこへ行くのか。ピクニックでもしに行くんだろうか。霞がかった思考を少しでも晴らすように目頭をつまむと、ばっちり、教科担であり担任でもある先生と目が合う。眠たがっていたのがばれただろうか。気が付かなかっただけで変な行動をとらなかっただろうか。普段優等生で通しているのに授業で眠りこけるわけにはいかない。ヒヤッとした汗が背中を伝い目が覚めるような感覚になる。これが、もう少し前に来てくれてればよかったのに。

「もう聞いてるのはお前だけだな」

と若干諦めたように笑う。あぁあついと独り言ちながらワイシャツをパタパタと、ヅラの境目から汗が滴るのがなんだかおかしい。こらえきれず顰めた声で笑うと、先生はこの状況への笑いと勘違いしたみたいだ。視線が後ろを通り過ぎるのを追いかけて周りを見渡してみると、プールの授業で消費したからと腹をくちくしたクラスメイトたちは穏やかな海色の夢に身をゆだねていた。

 

なんだか可笑しい夏の夢。

 

 

 

 

「って夢を見たんだ!!!」

授業終了のチャイムと同時に飛び起きて開口一番これだ。

「日下は良く寝られたみたいだから、追加でプレゼントをやろう」

まだ教室に先生がいるって言うのに、考えなしに発言するから。まあそういう奴だってのは何年かで僕も先生もわかっている。ので、形ばかりの追加プリントを机に生身で突っ込むのを見てももう何も言わない。5回に4回はね。

どうせ寝ぼけたまま見た光景を夢だと思い込んだんだろう。別に訂正してやらなくてもいいとは思ってるけど。