あらすじ:咲弥さんが拗ねてビールを開け始めたものだなぁ(熱帯夜1 - toffifeeの本棚 (hatenablog.com)
程よく宵も回っていき、ネットに乗せた音声や画像とも別れを告げる。待たせてしまった最愛の人は普段食事を共にするローテーブルにもたれかかっていた。いつも猫背ではあるが、素面で物に体を預けているところはあまり見ないから心配する。
「咲弥さん、寝ちゃいましたか……?」
小さく声をかけるとむくりと目を合わせ、へら…と笑った。周りからは表情が読みづらいと言われる彼だが、あまりそうは思わない。笑った顔はこんなにかわいいし、あまりよくわかっていないときは横に?が出ていそうなくらいかわいい。
「ん、つかさぁ……♡」
常に愛おしさを更新しながら、頭を擦り付けてくる。胸では心臓が跳ねるのと一緒に耳がぴくぴくと主張している。誘われるままに頭を撫でると温かくてふわふわした耳は横に寝かしつけられていた。いつしか見たテレビの猫特集では耳を倒すのは撫でられ待ちの合図だったはずだ。猫の特徴をそのまま当てはめるのもどうかと思うが、じっさい喉を鳴らしているので近いところもあるようだ。
「おわったのか……?」
猫なで声のように一層優しく問いかける声にこちらの声も必然、優しくなる。
「はい、おまたせしました。咲弥さんは、……これ、飲んでたんですか?」
軽く持ち上げた缶はまだ半分ほど中身を残していた。んんぅ、とうなっている赤毛を撫ですくめると尾がその手を追う。
「一人で飲むのは危ないですよ。……って俺言いましたよね?」
髪とそろいの紅鳶色がこちらを窺い、だってとそむけた。だってつかさが、ととがらせる口を軽く食む。
「俺がなんですか?」
また声にならない呻きを胸板に押し付けてくる。言葉にするのが得意ではないこの人が、じぶんの気持ちをわかろうとして、言葉にしようとしているのもかわいい。名前を読んで耳を撫でるけれど、決して急かしているわけではない。
「…………ごめんなさい、…♡?」
謝ってほしいわけではなかったが、その声も瞳も期待に濡れていたので仕方なかった。