「きたぞ!!!」
聞き覚えのある太陽のような声が、葵を微睡みからひきあげる。
生活の用意を、とは昨夜思ったがまだ連絡もしていないはずだ。
彼女に知らないことはないと言われるのも、ただ噂話が集まってくるだけじゃなかったのか。
寝起きでやけに回る頭が次々と疑問を生み出していく。
身支度も済ませないまま、扉の隙間から覗くと見覚えのある背中が家のドアを開けるところだった。
「お待しておりましたハル様!」
「ハナ!久しぶりだな!」
両手を握りあってブンブンと上下に振りながらなにやら楽しそうに話している。
ああ、なんだ。華が呼んだだけか。
ホスピタリティ先回りこと、痒くないところにも手が届く華であれば、当然葵がやらなければと思った頃には手配を済ませているのだ。
ああなんだ、ともう一度ベッドに倒れ込むが、ドアの向こうがずいぶん明るくなっていたことを思い出す。
客人が来ているのに家主が出ないのもおかしな話ですし……。
疲れているわけではないが、なんとなく眠たい欠伸をかみころして、身支度することにした。
「センセ起こしちゃったかな?」
少しの隙間が閉じられた扉を横目に声を潜めて問う。いつもより少しだけ慎重に、持ってきた食料や薬品を下ろしていく。
「ちょうど起きるところだったかと思いますよ」
実のところ、寝起きが悪くなった家主を1番心配していたのは一番弟子こと華だった。本人は陽光が入らないと、と言っていたがそれだけではないだろう。大事なことほどひとりで抱え込む癖が直らないなら、せめてよく寝てよく起きて美味しいものが食べられるように。
そのため、街の便利屋ことハルに必要なものを届けてもらうことは華にとっても急務だった。
「さあ、美味しい朝ごはんを作ります!ハル様も食べて行かれますよね?」
「それにしても、2人も知り合いだったのですね。」
昔から教会にいた華には、便利屋に依頼する機会も多くないはずだ。葵自身も教会から出てこの家に住んでから初めて利用したのだから。
「ハル様とは“お友達”なんです!」
ねー、と顔を見合せてクスクス笑っている。
「この街にアタシの知らないヤツはいないからな!」
「へえ!そうなんですね!清仁様のこともご存知だったんですか?」
するとハルはきまりわるそうにあー、と視線をさまよわせ、清仁をじっと見た。
「えっと、……キヨヒトが来た日、たくさんのヤツらが来てただろ?」
人差し指で宙を描きながら言葉を選んでいるようだ。
「なんか空気が重かったから、見に来てたんだ。でもセンセが連れて行って大丈夫だと思って。」
でもホントに!センセのとこならきっと大丈夫だから!とワタワタするハルと、
何をフォローされているんだ……?とボヤく清仁の声が聞こえていないかのように、葵と華は顔を見合せた。
「ちょっと待ってください、ハルあなた、“たくさんのヤツら”って……」
「そうですハル様、もしかして……」
「えっと、あんまり近くないとわからないんだけどな」と照れくさそうに頭を搔く。
「1つお願いがあるんです。
とある吸血鬼を探していて」
葵が真剣な表情で切り出すと、ハルは困ったように眉を下げた。
「えっと、なんで?」
「ハル様、実は……」
「……つまり、センセとハナがケンカして怒られちゃったから、店主さんと仲直りのために連れてきたいってことだな!」
今の話をそうまとめるのか……と、呆れたように清仁が呟く。
「うーん、100年かはわからないし、来てくれるかもわからないけど、」
顎に手を当てて首を傾げる。肩にかかる銀髪がハラハラとおちる。
「まちのはずれ。
もりにはいるばしょ。」
「ーー“黄昏の吸血鬼”がいるって話だ。」
「今日は珍しく歯切れが悪かったですね。」
「あぁ……あんまり“個人情報”を喋りすぎるなってフリッツに怒られるから……」