月が綺麗な日 7節

「きたぞ!!!」

 

聞き覚えのある太陽のような声が、葵を微睡みからひきあげる。

生活の用意を、とは昨夜思ったがまだ連絡もしていないはずだ。

彼女に知らないことはないと言われるのも、ただ噂話が集まってくるだけじゃなかったのか。

 

寝起きでやけに回る頭が次々と疑問を生み出していく。

身支度も済ませないまま、扉の隙間から覗くと見覚えのある背中が家のドアを開けるところだった。

 

「お待しておりましたハル様!」

「ハナ!久しぶりだな!」

両手を握りあってブンブンと上下に振りながらなにやら楽しそうに話している。

ああ、なんだ。華が呼んだだけか。

 

ホスピタリティ先回りこと、痒くないところにも手が届く華であれば、当然葵がやらなければと思った頃には手配を済ませているのだ。

ああなんだ、ともう一度ベッドに倒れ込むが、ドアの向こうがずいぶん明るくなっていたことを思い出す。

客人が来ているのに家主が出ないのもおかしな話ですし……。

疲れているわけではないが、なんとなく眠たい欠伸をかみころして、身支度することにした。

 

 

「センセ起こしちゃったかな?」

少しの隙間が閉じられた扉を横目に声を潜めて問う。いつもより少しだけ慎重に、持ってきた食料や薬品を下ろしていく。

「ちょうど起きるところだったかと思いますよ」

実のところ、寝起きが悪くなった家主を1番心配していたのは一番弟子こと華だった。本人は陽光が入らないと、と言っていたがそれだけではないだろう。大事なことほどひとりで抱え込む癖が直らないなら、せめてよく寝てよく起きて美味しいものが食べられるように。

そのため、街の便利屋ことハルに必要なものを届けてもらうことは華にとっても急務だった。

 

「さあ、美味しい朝ごはんを作ります!ハル様も食べて行かれますよね?」 

 

 

 

 

 

「それにしても、2人も知り合いだったのですね。」

昔から教会にいた華には、便利屋に依頼する機会も多くないはずだ。葵自身も教会から出てこの家に住んでから初めて利用したのだから。

「ハル様とは“お友達”なんです!」

ねー、と顔を見合せてクスクス笑っている。

「この街にアタシの知らないヤツはいないからな!」

「へえ!そうなんですね!清仁様のこともご存知だったんですか?」

するとハルはきまりわるそうにあー、と視線をさまよわせ、清仁をじっと見た。

 

「えっと、……キヨヒトが来た日、たくさんのヤツらが来てただろ?」

人差し指で宙を描きながら言葉を選んでいるようだ。

「なんか空気が重かったから、見に来てたんだ。でもセンセが連れて行って大丈夫だと思って。」

でもホントに!センセのとこならきっと大丈夫だから!とワタワタするハルと、

何をフォローされているんだ……?とボヤく清仁の声が聞こえていないかのように、葵と華は顔を見合せた。

「ちょっと待ってください、ハルあなた、“たくさんのヤツら”って……」

「そうですハル様、もしかして……」

 

「えっと、あんまり近くないとわからないんだけどな」と照れくさそうに頭を搔く。

 

「1つお願いがあるんです。

とある吸血鬼を探していて」

 

葵が真剣な表情で切り出すと、ハルは困ったように眉を下げた。

 

「えっと、なんで?」

 

「ハル様、実は……」

 

 

 

 

 

 

「……つまり、センセとハナがケンカして怒られちゃったから、店主さんと仲直りのために連れてきたいってことだな!」

今の話をそうまとめるのか……と、呆れたように清仁が呟く。

「うーん、100年かはわからないし、来てくれるかもわからないけど、」

顎に手を当てて首を傾げる。肩にかかる銀髪がハラハラとおちる。

「まちのはずれ。

もりにはいるばしょ。」

 

「ーー“黄昏の吸血鬼”がいるって話だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は珍しく歯切れが悪かったですね。」

「あぁ……あんまり“個人情報”を喋りすぎるなってフリッツに怒られるから……」

悪夢

頭を越える背もたれと両の肘掛けはまるで牢獄のようだった。
座面は柔らかすぎず、硬すぎず、長時間使っても苦にはならないだろう。
それでも、そこから、逃げられないと直感していた。
肩にまわされる手は優しいようでじっとり重い。
背後の影はなにかを囁きながらペンを持たせる。そのまま、誘導されるは、ー原稿用紙だ。

体が強ばる。そんな手の甲を細く長い指がなぞった。蠱惑色の爪先。緊張感に振り向くことを許されない。
見ずとも、確信していた。自分がいちばんよく知っている人物だ。その名を口にする。乾いてうまく唇が震えなかった

 

 

目を開く。背中が汗で湿っている。先ほどの夢の中と同じように口が乾いていた。サイアクの気分だ。もう一度寝なおそうか。寝返りを打つも、脳裏の先の光景が離れない。目を閉じていられなかった。

仕方ない、散歩にでも行こうか。顔に冷水を浴びせ、伸びた髪に櫛をとおし、お気に入りのパーカーを着る。

こんな夢を見るなんて自分の深層心理とやらは何を訴えたいのか。

こんな、あぜくんに、無理やり書かせる、だなんて。

ため息の代わりに胸いっぱいまで空気を吸い込む。早朝の冷たい空気は、熱に浮かされる自分を幾分かマシにするだろう。

歩きながら浮かぶ言葉やフレーズをメモする。薄い端末でも手書きで書き留められるのはありがたい。たまにはイラストで残すこともある。打ち合わせ中に、それがなにか聞かれるのは恥ずかしいので、文章におこしたあとは早々に消してしまうのだけれど。


息をするように話ができていく。

そんなふうに言えばあぜくんはどんな顔をするだろう。きっと数秒、息がうまくできないかもしれない。それで、なんでもない顔をして、悉カザリの新作をねだるのかも。
意地悪をしたいわけではない。だからそんなことは言わないけど、

この人はどうやったら悉カザリじゃあなくって、ボクを見るんだろう


無関心な人にこちらを向かせるのも相当苦労したけど、ここまでじゃなかった。
どんなに押したって暖簾に腕押し糠に釘。
コツコツ貯めたつもりだった好感度が定期的にふっと落ちるのだ。
何がお気に召さなかったのか、探る間に距離があく。そんなことを繰り返してへこみかけていた。
そんな折、大事件を引き換えにつかんだ事実。

才能?夢?挫折?

そんなことは知らないが、とにかくボクがずっと探していたものを旧友とやらはわかりあっていた、とか。

ボクは彼に主人公が羨ましいと言った。それは嘘じゃない。
でも、ほかの何も羨ましい。

あぜくんがボクにどんな感情を向けていようと、
嫌われたくないより好かれたいのだ。

もし、憎ましいとしても、それでも好きにさせてやろう。
愛憎は、紙一重なんだよ、あぜくん!

越えられぬ壁に挑み続ける者2

悉カザリにとって、感想は良いものも悪いものも等しく嬉しいものだ。

だってその分感情が揺さぶられているってことだから。

悉カザリの作品は感情移入がしやすいと思うけど、感情否定だっていい。

感情が動くって感動だから。

だから、聞ける感想は全部聞く。SNSのアンチの話もそういう人もいるんだーっておもしろい。率直な悪口も受け止める。

売れる本を作ろうとは思ってないけど、できるだけ多くの人に刺さる話にはなってほしい。

だからこそ、いちばんの読者である担当編集の感想は表情も、呼吸も、視線の移動も、ページをめくる速さも、読み終わった瞬間のため息も、全部もらう。

 

ただ、天才小説家ではあれど鬼ではない。自分がされて嬉しいことと、周りがされたいことの区別くらいついている。

そんなの聞いてみないと分からない。

だからこれは親切心一心だ。

「感想って言う?言わない?」

 

 

通話の先の詰まった返事を聞くまでは。

そういうことにしておけた。 

 

詰まる息、絞り出すような是とも非ともつかない声、ここまで取り乱したところは見たことがない。

好奇心に負けて書斎のドアを開ける。

来客用の白いソファに埋もれた黒い塊。

通話を切って直接問いかける。

表情を見せるのも嫌がりそうだけど、彼は同室で「読まれるのは」嫌だと言ったのだ。もう読むのは終わったからいいと思ってとしらばくれる理由はいくらでもある。

ねぇ、どうする?

しばらく悶えたあと、絞り出した声で何とか聞き取れたのは

「あなたがっ……決めてください、」

感想を言いたければ言ってください。言いたくなければ言わないでください。

 

でもさぁ、それは違うよね。あぜくんが求めなきゃ。そんなふうに、悉先生が言いたいから聞いてあげたなんて、そんなバリケード張ってちゃあね。あくまでもあぜくんが聞きたいって求めなきゃ。恥なんてものに負けないでよ。頑張って?ねぇ

 

「じゃあ感想聞きたくなったらいつでも言って?それまでちゃんと覚えとくからさ」

安心してね?って言葉が逆効果なのをわかって付け加える。善意で言う采ちゃんの声を出す。

 

「い、いいです……、っそれなら今、言ってください……」

 

だってさ、あぜくんわかってる?悉カザリのしたいこと。

「なかよしあぜくんの書いたお話気になる〜読みたい!」じゃあないでしょ

あぜくんを主人公にするって言ったんだよ。

これは、その、インタビューなんだから。素直には言わないだろうけど、でもわかってるよね。

相手によって聞き方は変える。どんな相手でも心情まで引き出したい。

悉カザリは主人公の詳細な心理描写が持ち味の天才小説家さんなんだから。

 

 

でもそんな意地悪したい訳じゃないんだよ。はいかいいえしか言えなくなっちゃったから、クローズドクエスチョンで続ける。

描写、設定の意図、思い入れの強いところほど、返事の声が震える。

もうこんなに観察されてるのに気づく余裕もないのかな。

でもさすがあぜくん。読みやすいし複雑な伏線も綺麗に回収されてる。相当勉強して考えたんだろうな。

 

 

じゃあ何が違うんだろうね。

 

 

 

少しずつ、少しずつ、皮を剥がしていく。

柔らかい関節を的確に狙ってナイフを入れていく。

骨と骨の間も。身に守られた心情も。

ひとつずつはずして、残ったものを飾りたい。

丁寧に剥いていく。隠せる場所がないように。

 

 

 

 

「ありがとう、あぜくん。ね、また書いてよ」

 

越えられぬ壁に挑み続ける者1

「あぜくんってさぁ、主人公だよね」

 

ひとしきりの大仕事が片付いた夜。いつものごとくふたりで祝杯をあげていた。といってもグラスに注がれたアルコールの量はたいして減っておらず、あてには向かない無塩のミックスナッツばかりに手が伸びているようだった。

 

いつだかの大事件の際も聞いたようなセリフな気がする。自分なんかよりよっぽどキラキラとした格好をしてキャラクター然としているのに。視線で続きを促しつつ、そうなんですか、と相槌を打ってみる。

 

 

 

「ねぇ、悉カザリの主人公になってみない?」

いつもの軽く流すような声色ではなく、なにかを交渉するような、目の奥を見透かそうとするような、翠に縫いとめられたように嫌な予感がする。

 

だから、過去に書いた小説をみせて

 

 

ねぇ、絶対おもしろい小説ができるよ。今まででいちばん。約束する。

 

という悪魔の囁きに揺さぶられ、ついぞふたつの約束を条件に首を縦に振ってしまった。

「ひとつめ、」

世に公開する前に私に読ませること。それで許可しなかった場合出版する原稿としては扱わないこと。

ふたつめ、出版しない場合、他社でもこの原稿を出版しないこと。

 

許可をだしたことを、今にも後悔しそうな脂汗で背中が湿る。こんな黒歴史を公開するなんて、でも、それを、この小説家が、天才が、どう書くのか、みたい。自分の届かないところから、何が足りなかったのか。諦めた自分から、何が生まれるのか。

こちらの覚悟は知らずか、「いいよー、一筆書く?」と呑気そうな声がかえってくる。

 

 

ときを改めて、訪れた仕事部屋兼書斎は異様な緊張感をはらんでいた。いや、緊張しているのは自分だけだ。今からでもなかったことにできないか、いや、でも。

「今日持ってきてくれたの?」

明るいトーンの、でも有無を言わさぬような問に絞り出された返事をする。

「やったぁありがとう。今読んでいい?」

持っては、きたが。目の前で読まれるなんて居た堪れない。

「読んでいる間、別室で待機していてもいいですか」

なんで?と素直な視線が刺さる。この人は、そうだ。この人にとっては、小説はきっと目の前で読まれても、面白いって言われるものだから。

 

「昔のものだし恥ずかしいですよ。あなたが読んでいる間、衝動で原稿を破り捨てるか、首を絞めてしまいそうです。」

「あぜくんが?采ちゃんの首を?絞めてしまうの?」

拒否しがたいだろうと選んだ言葉に逆に食いつかれる。趣味が悪い。

「なにキラキラした顔してるんですか」

指摘され、自分の表情に気づいたようだが、隠しもせず続ける。

「ふふ、それだけ、魂込めて書いたってことでしょ。それを読めるの、嬉しいなぁ」

思わず顔が歪む。すぐに手で顔を覆っていつもの顔に持ち直す。悟られてはいないだろうか、こんな感情。

じゃあ読み終わったら呼ぶねーと書斎から追い出され、小綺麗なソファに腰を下ろす。

このリビングのような部屋に通されたのは初めてだ。書斎に行くまでに見えるので部屋の存在は知ってはいたが、ソファに座ると、向こうに収納されたスクリーンとプロジェクターがあるのがわかった。

そんな風に別のことを考えて気を紛らわせようとしたが、効果はなかったようで、腹痛と胃痛と頭痛とがいっぺんに襲いかかってきていた。とりあえず懐に忍ばせていた胃薬を先に飲んでおこう。

 

幾分かしてスマホが振動する。みると扉1枚隔てた先からだった。

「読み終わったよ、ありがとうね。」

やっとこの胃痛の根源が終わるのか

この数分が何よりも長く感じた。

安堵したのも束の間、無邪気な邪悪が襲いかかる。

 

 

「感想って言う?言わない?」

月が綺麗な日 6節

100年生きた吸血鬼を連れてきてください

 

「と言いましても……」

帰路に着く葵は途方に暮れていた。

そもそもそんな伝手があるなら、危ない落し物も拾わないのだ。

「大変なことになってしまいましたね」

誰のせいだと、とでかけた声は夕暮れの溜息と同化して消えた。どこか楽しそうなのも気に障る。今にもスキップしそうなものだ。

「華は知り合いにいないんですか?」

「駆除対象以外でですか?」

「……」

 

西日に伸ばされる影よりも、帰り道は長く感じた。

 

あら、厳重ですねと微笑まれながら家に帰る。戻ったと声をかけたが、吸血鬼の彼は敏い耳で警戒しているのかもしれない。

 

 

「えー、清仁くん、紹介します。」

「華とお呼びください!」

ローテーブルを挟んだ向こう側で、いつものような仏頂面、というよりは少しだけいぶかしげに清仁は視線を上げる。

ちら、と葵を見やるが、その苦い顔を見て問いただすのはやめたらしい。

 

「アー、……どうも」

 

 

清仁様!と飛び跳ねている弟子をキッチンに追いやり、ようやく清仁くんと話す時間ができた。

「あぁ、悪い子ではないんです。……というか、ええと、悪いつもりはないんです。」

「言いたいことは分かってやる、が……。」

渋い顔をしていたが、この話が通じる時点で、葵にとってありがたいことはこのうえなかった。

 

「とにかく、生活基盤を整えるのは優先ですね。……。」

課題のことはまた明日から考えよう……。

葵は疲れ切った頭で、華の寝床の手配と、これからの事を考えていた。

月が綺麗な日 5節

「毎度ありがとうございます」

店主が唇の端をゆがめて硬貨の入った麻袋を受け取ろうとした、その時だった。

 

「やっと見つけました……葵様!」

ふわりとスカートを優雅にゆらしながら、葵に銀のナイフを向ける。

軽やかな表情のまま、鈍く光る切っ先がこちらを狙っていた。

 

「そんな戦い方、誰に教わったんですか?」

顔を顰めて葵も隠しナイフを取り出す。

腰に指した手前から二番目。本当はこんなところで使うものではなかった。

「今までどちらにいたのですか?アメリア様も心配して……」

心配、と言いながら容赦なく向けてくる刃先を周りのものも駆使して避けていく。麻袋、板、もっと値打ちのあるだろうものが淡々と消費されていく。

「心配されるような出かけ方はしていないはずですが。一挙手一投足把握できないと不安ですか?」

「そんなことより……!」

投げられたナイフを避けようとするが、対応が少し遅れた。このままでは避けきれない。少しでもマシな受け流しを考えていると急に視界が暗くなる。

飛んできたナイフと自分の間に、板を差し込まれていた。

「はいはい、そこまで。これ以上ウチの店で暴れないで。」

投げられたナイフは板にトスっと刺さる。

自分が気がつくよりも前に、助けられていた。

ナイフの刺さった板ごと放った店主は、言い方こそ穏やかだが、冷えきった目でこちらを見下していた。

「店荒らした責任、取ってくれますね?」

そういう店主は今日一番の貼り付けた笑顔だった。

 

 

ここは表向きは武器屋。人間にも吸血鬼にもお金さえ払えば欲しい武器を売ってくれる。そんな訳ありの客が集まる場所は裏で情報屋をやるのにピッタリだった。

ただ、この店の中では、教会の人間も吸血鬼も争わない。不戦を暗黙の了解として利用していた。

それが可能だったのは、ひとえに、それを止められるほどの実力を店主が持っているからだ。店主に悪く扱われることは、致命的だ。だから、どんな親の仇にあっても、話し合い殺し合いは店の外に出てからだった。

 

 

 

「元はと言えば華、貴方が急にナイフを向けてきたからでしょう。」

「だって葵様がなんにも言わずに勝手に行ってしまうから!」

「なんにもって……、しばらく出るとは伝えましたよ。」

「でも、葵様がすることはお手伝いしたいのです。葵様の夢に混ぜてください。」

曇りなき眼で両手を胸の前で合わせる。それを言う為だけに、ナイフを向けてきていたらしい。

 

 

店主は穴の空いた麻袋をカウンターの上に置き直す。

「……じゃあ俺のお願い、聞いてくれますね?」

大方片付けた店主は言う。有無を言わさぬ圧力だった。

 

「100年生きた吸血鬼を連れてきてください。」

The world will never "xxx" 6

「朝ごはんを食べましょう。食堂に向かいますよ」

 

怒涛の準備時間を過ごしたおれたちを知ってか知らずかユニは扉の前で待っていた。

「食事の時間は決まっているんです。皆さんそれぞれに合わせたものが用意されていますから」

食堂、と書かれたプレートが下がっている。案内された清潔感のある部屋には10人ほどで囲める大きい机が3つ。そのほとんどはすでに埋まっていた。

なかには金髪やピンク、赤など色とりどりの髪色の人がいるが、みんな揃いの制服を着ている。

 

「あ、センセたち!席とってあるぞ!」

大きく手を振りながらも、声は抑えてシズが呼ぶ。

その近くには昨日会ったトリやプロフェシーもいるようだ。

カウンターから各々の食事を受け取り、その席に着く。

ほどなくして食事開始のベルが鳴り、それぞれが黙々と食べ始めた。

 

周りが静かな手前、声を出すことが憚られる。ヴァウが目線だけで回りをうかがっていると、シズが耳打ちしてきた。

「食欲ない?あ、食べれないものあった?」

ぶんぶんと顔を横に振り、緊張感に気圧されながらも口を開いた。

「あ、えっと、なんか静かで緊張しちゃって……」

するとシズは顔を顰めて言う。

「静かに食べないとね、怒られちゃうの。ご飯食べ比べとかもね、だめなの」

「すっごい怒られるんだぜ」とプロフェシーも顔を寄せて言って、そそくさと自分の食事に戻った。

確かに食べ比べをしたくなる気持ちもわかる。人によってプレートの中身は違うようだ。

自分たち三人はあまり変わらないが、他の人たちの食べているメニューはみんなそれぞれ違う定食のよう。焼き魚の人もいれば、トーストも。どこからかコーヒーの匂いもする。特にシズは特徴的で、一つのどんぶりと、チョコレートがあるだけだ。同じように、小皿にチョコレートがある人は多い。

がたん

周りの椅子を引く音で我に返る。食べ終え片付け始めている人がいるようだ。

ヴァウはいつも食べるのが遅いと言われるので、ペースを取り戻すかのようにどんどん口に突っ込んでいった。

 

「食事も終わりましたし、訓練にいきましょうか」

移動する俺たちに、プロフェシーがついてきた。

「今日おれ暇なんだよね、一緒に行っていいでしょ?」

「今日プゥちゃん一緒なの!?やったー!」

シズは飛び跳ねて喜んでいる。スキップしながらみんなの周りをまわっていて、人にぶつかるんじゃとひやひやする。

それを抱え込みながらトリが問う。

「また追い出されたのか」

なんかラビット調子悪いらしいよーとなんとも軽い調子だが、それを聞く周りもいつもの、といった様子だ。

「ではプロフェシーくんにはシズと一緒についてもらいましょうね」