かくしもの、たからもの、そんなもの

上から二段目の引き出しには鍵がかかっている。

別に特段詮索をして縛り付けたいわけではないので、何が入っているかは聞いていない。だが、その透矢さんの棚の唯一鍵穴のついている引き出し。あの人はどんなものを入れるのだろうと実のところ少し気になっていた。

鍵付きの引き出しと言えば普通見られたら困る物、だろうか。でもあの人は隠し事が得意ではない。わかりやすくそんなところに隠して……ということは考えにくいだろう。でなければ何か。大事なものかもしれない。通帳とか印鑑とか。俺に対して隠しているとかではなく、なんだ、強盗対策とか。それか、大事にしまっている感が強いから自分で忘れにくいとかそんな理由かもしれない。そうでなければ……そう考えていると浴室の扉の開く音がする。さっさと行かなければ満足に拭かずに次の順番を呼びに来るだろうから。大したことない想像をしまい込んで腰を上げる。

 

 

髪も乾かしてきてから隣に座るとだらんと寄りかかってきた。冬だから。冬だからか、それなら仕方ないな。そうだろう。風呂上がりのほてった体をくっつけて、体温を分け合う。

「1週間くらい、泊りで行ってくる。」

「ン、……大会?」

「そう。この日からこの日。午後には帰ってくる予定では組んでる。」

「わかった。じゃあその前に翔湊補充しておかなきゃ」

照れ隠しなのか悪戯っぽく笑ってぎゅっとしがみついてくる。愛おしさがありあまって、前髪を払って額にキスをする。そのまま輪郭に沿っておりて、たくさんキスをする。一方的にキスをするのに満足したら、二人でベッドに行くことにした。

 

 

泊りの時間はすごく長く感じた。移動や大会は忙しかったり刺激が多かったり飽きなかったが、どうしてもホテルの部屋に一人、となると寂しく感じる。ラインで連絡はしていたが、次の日に支障が出ても困るため電話はなるべく控えていたから。帰ってきてまずは抱きしめて成分を吸ったし、今も遅めの昼食を準備してもらっている。先に荷物を置いてこようと部屋に入ると、あの引き出しがあいていた。いつも鍵がかかっているはずなのに。良いのか、そんな、開けっ放しなんて。案外大したものが入っていないからかもしれない。それでも、勝手に覗くのは話が違う。キッチンに顔を出しそのまま伝えることにした。

「引き出しのカギが、開いているんだけど」いいのか?言葉の途中で気づいたのか言い終わらないうちに横をすり抜けて引き出しへ向かっていた。気づいた瞬間顔を赤らめていたし、なにか、見られたくないものだったのか。それなら、まあ、見なくてよかった、か。火をかけていた味噌汁が沸きそうになるのを止めて、器によそう。いくつかの皿をダイニングに運んでいると赤面の名残のある表情で戻ってきた。別に聞く気はない。無理やり聞くのは良くないし。それで窮屈な思いもさせたくないし。顔を覗き見ると、ウ……と気まずそうな顔をして、話し始めた。顔に出していたつもりはなかったのに。そんなにわかりやすかったか、俺。

「あー……ラブレターが、入ってます」

ガタン、と椅子を音を立ててずらしてしまう。いつもらったものだ?誰から?さすがに、気になる。だって、そんな大事にしまっていたなんて。いい、と思っていたから、だろう。その様子に焦ったように言葉を繋ぐ。

「あの、前、翔湊にかいてほしいって、言ったやつ」

あ、ああ、そうだ、確かに書いた。あの時は急に言われて焦って、でも持ち前の語彙をフル回転させて、なんとか書いた、青いラブレター。突然ねだるから何に感化されたのかと思っていたが、そんな、ところに、大事にしまっていてくれたとは。しかも、開いていたということは、いない間に見ていた、のか。

「それは、また書いたりしたら、そこに追加されるのか」

「!また書いてくれるの?」

「ン、でも、透矢さんも書いてくれると嬉しい」

分かったと恥ずかしがりながらはにかんでいるのを、また腕で包み込んだ。