AI assist your -ai-

—渇感センサーが70%を超えました。早急な水分補給を推奨します。—

 

耳元で喚く無機質な音に乾いた舌打ちで応える。この勝手に体の状態を探られる感じには慣れない。それがわかってんならもっと外の状況もわかってほしい。翔湊は暑さが刺さる頭を守るようにまた深く帽子をかぶりなおした。

 

目指しているのはこの先、どこだかのビルの地下一階。仕事を回してくれるマスターがいるらしかった。そこは一見普通のバー。しかしそれを知らないものが訪れることはない。ここは多くの反アシスタント派が集まる、いわゆるアジトだからだ。

20XX年、AI技術の発達とともに生み出された様々な”アシスタント”は健康から仕事、恋愛に至るまで人間の生活を観察、助言、サポートする、今ではなくてはならない存在になっていた。そしてその多くは元々利用の想定されていた健康状態の管理だけでなくマッチングの場面で活躍を見せている。新卒入社の段階から利用者にあった会社を助言することで離職率を大幅に下げたり、性格や能力、遺伝子の観点から運命の相手を見つけ出すことで、幸せに暮らすことができるようになったのだ。多くの会社や政府が導入を奨励し、助言に従うことで人間生活は飛躍的に”善い”ものになった。

 

翔湊は別にAIに乗っ取られるのが嫌だとか何だとかを言いたいわけではない。マッチングするならすればいいし、幸せになるならなればいいじゃないか。ただ、この”善い”生き方が主流になっているなかで、今のこれが、自分の生活が最善なんだと突きつけられると、それは違う!と退けたくなるだけであった。

AIを否定するものの集まりをAIが勧めるはずもなく、アジトは開放的な雰囲気であるもののその思想を持たないものを寄せ付けない排他的な空間になっていた。

 

結局帽子が守ってくれるのは頭上の太陽からの熱視線からだけであって、ビル街特有の熱気には存分に煽られる。約束の時間にはまだ余裕がある。ほてった頬をあおぎながらひっそりとたたずむビル影に体を滑らせる。しゃがみ込んで大通りを眺めていればキラキラとまぶしくて目を細めてやり過ごすしかない。

—渇感センサーが75%を超えました。……—

うるさいな、わかってるよ

行かせないとでもいうようにしつこく警告をならしてくるそれを振り払う。当然擦り抜けるはずであった手は冷たい水滴に濡れた。

 

 

「きみ、大丈夫か?」