夢だってみれるから

「お兄ちゃん!もう着くよ!」

手を引かれ目を開けると電車の案内板は乗り換えの駅を示していた。早朝から出てきてこちらはまだ眠いというのにキラキラとした顔で早くはやくと急かしてくる。そのまぶしさに天使か……?などと思いながら切符を差し出し改札を通る。

案内のまま進んでいくと、まだ駅であるはずなのに、違う世界に入り込んだかのような雰囲気であった。まっすぐ続く石畳、はなやかな音楽、にぎわうショップ。続きの切符を買ってホームに上がると周りもそんな浮かれた雰囲気にまみれていた。自分からは選ばないような雰囲気に内心緊張するも、隣を見やると目が合ったとたんえへへとはにかむ天使に早くも来てよかったなどと感動する。

数分と待たず列車が到着し乗客たちが乗り込んでいく。電車の内装すら世界観に合わせて作られているらしい。つくづくすごいところだ。キャラクターの形の窓から見えるは雑誌で予習した城。夜になったらライトアップもするらしい。

行列に従って開園待ちに紛れると最後の確認をされる。このアトラクションに乗って、このパスをとって、ここで買い物をして、だの。聞いていると、あと少しでこの国に入れるわくわくでたまらなくなってふせんだらけの雑誌をいそいそと取り出す。今日を楽しみにしすぎて何度も話していたら先生から渡されたものだ。効率的な周り方もレクチャーしてもらった。今日の計画はそれをもとに二人で綿密に計画したものだ。素晴らしい一日になるに決まっている。

 

 

 

 

そう思っていたのに。

五味梓はかの有名な絶叫マシーン近くのベンチに寄りかかり動けなくなっていた。学生にも人気だというこのアトラクションがここまで過激だとは。今までの人生で一度も受けたことがないような刺激に三半規管がひっくり返されたような心地だ。心配そうな顔で駆け寄った天使はペットボトルの水を差しだす。

「次は動かないやつにしよっか」

動けなくなってしまって計画変更せざるを得ないなんて。そのせいでこんな困り顔をさせてしまうなんて。不甲斐なさと頭の奥からくるようなグラグラを見ないふりして手を引かれてみる。

ついたのは候補には上がっていたものの最終的には選ばなかったアトラクションだった。亀だか魚だかと話すとかいうもの。列が進み建物に入るころには目が回るような気持ち悪さはいくらかましになっていた。

 

「じゃあそこの黒の甲羅を着た君!」

マイクを差し出され挨拶を強要されるもなかなかOKがもらえない。周りから笑い声が漏れている。みかねたなーちゃんが代わりにやって事なきを得たけど、終えたなーちゃんがこちらを見て声を潜めて笑っていたから指名されてよかったとまで思う。

その後も様々なアトラクションを体験した。リボンのついてない方の耳を渡され記念撮影をしたり。踊るプログラムでは左右が反対だったし、二度目のコースターでは今まで出たことのないような声が出た気がしたけど。でもあの、空中散歩のアトラクションは良かった。映像だとはわかっていたけど、でも、この世界は自分のためだけに作られているんじゃないかと錯覚してしまうほど、広い空だった。こんな空はどうやって描いてやろうか。

 

夜の光と音のパレードを見終え、たくさんの建物からの降られる光に見送られながら、この国を後にする。「楽しい夢の国だった……!」手を取るなーちゃんは楽しさとさみしさを織り交ぜたような表情だった。「うん。夢みたいだったよ。”楽しかった”。」

そう。ちゃんと楽しみを感じられている。だからきっと大丈夫。しかりと握り返し幸せを受け止める。