その姿がどうであろうと-4

あらすじ:主人はおつかれのようだ(その姿がどうであろうと-3 - toffifeeの本棚 (hatenablog.com)

 

「ねえ、ずっとこうだったらどうしよう」

 

ベッドに転がした彼は布団を頭からかぶってそう言った。それはともすれば、衣擦れに負けてしまいそうな音で、はじめ何と言ったかわからなかった。ずっとこうだったら。それが、彼はずっと不安で。彼のそばにいても自分は何もわかっていないということ。理解しているつもりだったけど、改めて突き付けられて、少し手が震えた。それを誤魔化すように彼の背を撫でる。

「先生もそのうち戻るとおっしゃっていましたよ。」

「……………………。」

 

 

 

「戻らなかったら、また、ずっとこう、何もできなくて、何も、なにも…………」

 

 

 

 

 

酷い有様だ。

女性になってから何もできなくなった。仕事も進まない。人に会うわけには当然いかないからだ。突然の変化の説明が……なんて些細な問題で、結局大きな額の動くビジネスの席に女性が出てきたら話にならないだろう。吹っ掛けられるだけならまだしも、信用を失ってもう取引できなくなるかもしれない。それに、それに。家での書類作業すらままならない。服も机も椅子もサイズが合わないし、常に集中が散るし、思考がまとまらないしでもう散々だ。サイズはともかく、世の女性はこの調子なんだろう。動きづらいことこの上ない。このままだったら、ずっとこうだったら人に仕えるしかなくなるかもしれない。だって姉妹きょうだいもそうだったのだから。そうしたら。ここまで手に入れてきたものたちは。努力は全部無駄になるのか。もうすでに磨いてきた自分の能力すら使い物にならなくなっているのに、これ以上、まだ失うのか。地位も財産も従者も、全部。

その考えがよぎるほど作業は手につかなくなっていった。食事時にもモースに声をかけられる。もうこんな主人に仕えたくはない、心の奥でそう思われているだろうと声が聞こえる。だってそうだろう、私でもこんな頼りない主人願い下げだ。誰が従おうと思うか。少しでもできることをしようと少しの時間も惜しんで机に向かう。それなのにちっとも進まない。休憩ばかり勧められて、なんだ、やっても無駄だから?そうかもしれない。

期間がたてば戻ると先生が言っていたのはわかっている、理解している。でも、嫌な不安が、ずっとこびりついてとれない。もし戻らなかったら無駄だって思うこと、それをしようとするとぎゅっと締め付けてきて頭が重くなる。

 

どうせ無駄ならしないで休んでもいいだろう。でも嫌、このまま、布団にくるまって、役に立たず終わっていくのも嫌、でも何もできない、嫌、嫌、いや………。