その姿がどうであろうと-3

あらすじ:にょたった主人の様子がおかしい(その姿がどうであろうと-2 - toffifeeの本棚 (hatenablog.com)

 

なんだか小さくなったと感じる。

 

たしかに小柄にはなっている。オーダーメイドで作らせたジャケットの肩が落ち、まくった裾が邪魔なのか若干足を引きずるようにして歩く。新しいものを用意するよう進言してはいるが、すぐ戻るはずだからと笑って躱される。確かに先生もそう言っていた。原因はわからないが、流行り病みたいなもので数日から数週間で戻っている人がほとんどだと。戻る要因も戻らなかった人がどうなったかも教えてはくれなかったが思っていたより神妙な顔をしていなかったから、深刻な被害や症状は出ないのだろう。主人に苦痛がないのなら。男性だろうが女性だろうがそんな些細なことはどうでもいい。

そう伝えたらどうだろう。普段より低いところから見上げて、ふふふ……と。笑ってくれるのか。到底伝える気はないが、女性の姿になる前の彼をモデルとした想像上の彼は、案外目じりが吊り上がっている。人当たりのいい印象を受けるが、それはやわらかい表情や下げた眉のおかげであって、もともとはあの堂々とした気迫がある人なのだ。

その気迫が小さくなったというか、なんというか。にじみ出る意志の強さが減った……みたいな。とかく心配なのだ。気のせいかもしれない。たまたまかもしれない。でも、自信の鎧が薄くなって本人も不安に感じているとでも言おうか。なんとなく、下を向くことが多くなった気がする。それと随分お疲れに見える。部屋でお仕事をしているときもぼぉっとしていることが増えた。それなのに少し休憩しましょうかと言っても頑として聞かない。今はそんなに詰めないといけない予定もないと聞いていたのに。

新しい紅茶をトレイに乗せノックをする。いつもより顔を出しすぎだと言われるかもしれないが、デイヴィッド様が予定を詰めて仕事をされているときはこんなものだ。声をかけないと通しで作業して肩を痛めてしまうのだから。集中しているときはノックにも気づかず返事をよこさないから、今日もきっとそうだと、そっと扉を開ける。

宙を見ていた彼はこちらの存在に気づいた瞬間びく、と肩を震わせた。驚かせてしまって申し訳ない気持ちになる。謝罪をしつつ部屋へはいると彼は手元を見やりぐにゃりと顔を歪めた。

「お疲れのようですし、少し休憩しませんか」

「……しない」

「ですが……」

「だめなの!」

こぶしをついた表紙に机上の紙が何枚か落ちた。今日、この部屋に入った時に見たものが白紙のまま重なっていたのだ。

「なにも終わってない、なにもすすんでないの」

「それでしたら余計、やすみましょう。調子のすぐれないときは難しいものでしょうから。気分が変われば進むかもしれませんし。」

立ち上がるため手を出したら、全身でぶつかってこられた。

 

 

 

 

「ねえ、ずっとこうだったらどうしよう」