「こんなんでも使いようはあったわ」

「限界……」

規格外のソファーにベッド。いつも通りの自室のはずが、この男がいるとどこか埃っぽく感じる。

「またかね」

上着をかけながら見やると部屋の隅に掃き捨てられたような男と数冊、転がっていた。

足先でつつき反応を伺う。だってシャツの前を寛げてるから、手は空いてなかったのだもの。う”う”……と呻き声をあげるそれはどうせ動けないだとか腹が減っただとか大方そんなことを言いたいんだろう。

「なん、いつもそんな限界までいるん?」

親切心1割、興味1割。いちいち面倒見るのも億劫という言外の訴えが8割。

最低限身じろぎのする頬に右足の親指を押し込めばぐう、と何かの潰れたような音が鳴った。ぐうの音は出るってか、やかましいわ。

 

「……よか。そのつもりで来たんやろう。」

はああ、とこれ見よがしにため息をつきながら部屋の隅に積み上げたガラクタと一緒になる。

悪態ばかりつくがこの状況が、心地いいことは事実であった。何者でもない部屋の置物になって、自分じゃなくてもいいのにでも自分がいないと死んでしまいそうな男に首筋にハァッと息を吹きかけられて。どうせ死にはしないんだろう。生きようと思えば……やりようもある。それができない男でもない。それでも……。

思考が濁ってきたのを遮るように這ってるそれの襟をつかんで引き上げる。そんなことを考えるために共にいるのでも、そんなことを口ずさむような相手でもない。それに、部屋のガラクタまでは落ちれてもそれ以上は、お前が上がって来い。

 

不器用に這う舌。あるのかないのか気休めの後にプツリ。たてられた牙の隣に赤い雫が滲む。零れないように下で掬い取る間に、また次の、次の雫が。無駄にしてくれるなとの言葉を覚えているのか定かではないが、直接口を付けズズッと汚い音を立て啜られると思わずとも肩が揺れる。痛いなんて、言ってもどうせ聞こえてないだろうし。

 

また、馬鹿の一つ覚えのうようにあつい舌を不器用に這わせる。現代社会に飢えるかわいそうな怪物が満足した合図だ。その唾液には止血だとか催淫だとかなんだかがあるとは言っていたのは覚えている。「へたくそ」その頭を向こうへ押しやって。いつものそれは終わりだ。何か言っているような気がするがシャツをかごに入れることが先だ。

痛みばかりで、もう。吸血鬼ともいうならば快楽に酔わせてくれるはずだったのに、こんなもの。もうしないと吐き捨てて何度目かはもう数えていない。

 

いつになったら終わるのだろうか、こんなもの。と苦い顔をする自分に、きっとどちらかが死ぬまでと答えるのは誰だっただろう。