「冷食 とけてて 怒られた。」

暑い日の昼下がり。

こんな日にわざわざ外に出たくなかった。母親に頼まれなければ絶対に家にこもっていた。手で日差しを遮って買い物袋を握りなおすと見覚えのある人影に気が付く。交差点で去っていく誰かに大きく手を振っていた。こちらにはまだ気づいてないようだ。

足を速めてかれに近づき、「よ」と軽く手をあげて声をかける。振り向いた彼は暑いのをものともせずにぱっと笑った。「おぉ!頼人はなんだ、買い物か?」手伝おうか、と自然に出される手をありがたく借りながら、辟易とした顔を作ってみせる。「頼まれたんだよ」そうだよなぁ、じゃなきゃこんなに暑いから、頼人は外に出てこないよなぁって思った!カラッと笑われて、見透かされていることにほんの少し恥ずかしさと、わかってくれる嬉しさを自覚する。

「ていうか青はなに持ってるんだ?それ」

 

手に握られていたのは一本の草。花束とかに入ってる、主役にはなれない引き立てる方のやつ。

「さっきあのばあちゃんがくれたんだよ」

話によると家の近くで重たい荷物を困っていたから家まで送ったと。その礼に花束から一本、その草をもらった。

「一応花、ついてるんだぞ、 見えにくいけど」

顔の前にずい、と出されたそれを見ると確かに小さな花ががくの奥に隠れていた。

「モルセラって言うんだって。」

花言葉は…、と手元の小さな端末を操作する。

「永遠の感謝、だって」ピッタリじゃん、と愛おしそうに視線を注がれるそれに少し眉を寄せてしまう。…別に、これは、暑いからだけど。

 

「それにしても、花束にこの草めっちゃ入ってた…バランス悪くねえのかな」

なんとなく不満げな、というかすっきりしないといった面持ちで少し口をとがらせる。「おれならもう少しかっこよくやるけどなぁ」

でもそんな。たかが高校生のセンスが、本職にかなうわけないだろ。きっと、

「なんかほかに意味があるんじゃないのか。花言葉以外にも…誕生花とか」

天才か!?と叫びながらまたいそいそと画面をタップしていく。「おっほんとだ、あのばあちゃん今日誕生日だったんだな!」おめでとうって言いに行こうぜ!そういって元来た道を走り出した彼に、口では抗議の声をあげながらも、おいて行かれないよう足は懸命に地を蹴っていた。だって買い物の袋を片側持ってもらったままだったから、だから、仕方ない。そんなことに、知らない人相手なのに楽しみでたまらないといった青の顔を覗き見る。それを見て自然と口元が緩むのも、なんでかは知らないけど、仕方ないんだ。