今日は何の日? ver2 試合に負けて勝負に勝つ

「わ、忘れてた――――――――――!!!!!」

 

 

今日は立春。東風凍解、春の風が吹きはじめる季節になりました。雪解けの土の中からフキノトウも顔をのぞかせるようです。春一番も間近、私は鶯が鳴くのを楽しみにしております。いかがお過ごしでしょうか、といった具合に今日はばっちり立春であった。閏年の関係だか何だかで今年は例年より一日立春が早いらしい。国立天文台暦計算室なんかが発表してるってニュースで言ってた。知らんけど。

 

「豆!豆まくんだよ!昨日なの!忘れてた!」

「フゥン」

 

興味ねェだろ!いいか、郷に入っては郷に従えっていうだろ!日本人なんかは特におっかないから空気読んで従わないやつは全員包丁持って追い回して食べちまうんだよ!悪い子はいねぇが~~~って言って!どうしよう!その鬼を追い払うために豆まかなきゃならないのに、昨日忘れてたの!それにあと、なんか運気をあげるため?に太くて黒くて長いものを口に咥えないといけないらしい!

なんて早口でまくし立てるのを適当に聞き流す。寝不足の頭にはよく響くから。ていうかそれなんかいろいろ混じってんぞ。最後のとか特に。同人誌で見た。歪な文化認識を今更訂正するつもりもないし、はたから見ている分には面白いので放っておく所存だが、このままうだうだ説教垂れられるのはごめんだ。

 

「じゃあ今からまけよ。豆」

「そ、それで鬼許してくれるかなぁ?」

 

マァいんじゃね?それに食われるときは食われるだろ。だってそいつらだって腹減ってんだろ?なら仕方ねェじゃん。食料が目の前にあって腹が減ってるとき豆がまかれてるとか気にするようなタマか?日本人は繊細なんだとはよく言うが。鬼にも鬼の鬼生があるんだよ。愛しい人のために食料をとってこないといけなかったりな。昨日読んだ人外とのラブストーリーはまじでよかった。めっちゃ泣いた。ハッピーエンドにならなかったのまじで許せん過ぎて少しでも幸せな二次創作漁ってたら朝になってたけど。まあ気になるんならまけば?まかないよりマシじゃん

 

「わかった…」

 

やれやれ。…というかこの作者さん最高すぎでは?学パロはやっぱり世界を救うんだな。人外も個性として学校に行ける世界幸せがぶっ飛びすぎて宇宙いってしまう。酸素くれ。なのに放課後爛れたセックスするからいいんだよ。世界はてめえらが思ってるほど綺麗なものだけでできてないぞってな。逆もしかりだが。はぁ~~~~~R-18死ぬほど読みてェ~~~~~脳みそ空っぽにして推しカプの性行為だけ眺めてたい。でもドしんどいシリアスも見たいしギャグも見たいしぐちゃぐちゃにエッチしてるのも見たい。推しカプに幸せになってほしいけど泣いてるとこも不幸に顔を歪ませるところも見たい。pi〇ivが簡単に見れる時代に生まれてよかった~~~~~~15世紀とかだったら耐えられなかった。ルターより先に活版印刷使いこなしちゃってたかもしんね

 

投擲31成功

 

パァン!という音と共にソファに転がしていた背中に衝撃が走る。なになになに。振り返ると落花生片手に悪魔は微笑んでいた。曰く、鬼って煩悩に宿るらしいよ。だぁれが煩悩の塊じゃこら。どう考えても否めないだろうが。だからと言って煩悩の象徴スマートフォンを手放すことなどできなかった。今この作者さんに感想コメ送らんとならんから!そんなことで追撃の手を緩めるような奴ではない。知ってる。俺でもそうする。スマホ片手に受けて立つしか俺と推しカプを守る術は残されちゃいなかった。

 

 

 

 

数時間後。残るは部屋中にばらまかれた落花生と床で荒く息をする俺たち、一夜を共に越してついに充電が落ちたスマホ、そして「ひとにむかってなげてはいけません」と大きくプリントされていた豆の袋。なお落ちた落花生の何割が踏まれたり投げた衝撃で割れているのか俺たちはまだ知らない。はいはい、対戦ありがとうございました。こうして落花生を介したデスバトルロワイヤルの幕は閉じた。来年はドキドキッ☆誰がうまく恵方巻を作れるかな選手権とかだな。平和に行こう平和に。睡魔にとうに負けていた瞼の裏でそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とか言ってたのに。

 

ほかのメンツが帰ってきてこの惨状への説教と状況説明を経てドキッ☆恵方巻大会が今夜開催されることになっていたらしい。目を覚ますと、財布とスマホだけ持たされて外に追い出された。曰く恵方巻の具を買って来い。ここは腕の見せどころじゃねえか。絶対に勝たせてもらう。別に戦いなんぞとは一言も言われなかったが。

 

のりに、たまごに、かんぴょう。それとさくらでんぶ。恵方巻なんて作ったことないもんで何が入ってるかも知らないが、とりあえず恵方巻コーナーにあるものと隣の奥さまとお話しして出た具材をカートに投げ入れてく。普通にググろうかとも思ったが、スマホの充電切れたままだった。そりゃそう。あとは、そうだな。米に合う具材であればいいんだから…

 

「あれ、電話したのに」

 

買い物袋を提げて帰宅すると彼女たちは思い思いの準備を始めているようだった。一人一つ恵方巻を作ってどれが美味いか競うらしい。勝ちじゃん。俺が勝てないなんてことある?あるな、万年びりだったわ、つら。とにかく買ってきた一般的な具材を冷蔵庫にしまってくる。優里愛はもう作り終えているらしい。この時点ですでに負けているような気がしてならなかった。腕まくりをしてキッチンに立つ。今からここは男の戦場となるのだ…!

 

 

「「「「いただきます」」」」

 

さてドキドキの実食タイム。各自自信満々の具を入れてきているがゆえにほかのメンツの具材に戦々恐々とせにゃあかんのだ。そもそも食べられるものが入っているのか。ゆりあはともかく、他二人はその時点からかなり心配だった。ちなみに、全員普通のサイズの恵方巻を四本も食らいつくす自身はかけらもなかったので、小さめにカット済みである。発想の勝利。

 

「まずはうちのから食べてな」

 出されたのは、割と細めの海苔巻き。外から何が入っているかは確認できないがどこか出汁のようないいにおいがする。一口かじりつくと、もにょもにょとした触感。どうやら食材は一つだけ。口内でノリが噛み千切られ舌の上に躍り出たのは、細い麺であった。この細さとこの出汁の風味。そして何より噛むたびに広がるこの穀物の香りは

 

「そば…!」

 

「正解、やで~♡」

 

え、なんでそば?ご飯にそば、炭水化物に炭水化物を巻く意味が分からない。ていうか味めちゃくちゃ微妙だし。そばがご飯のせいでぬるくなってるし、ご飯はそばの水分でべちゃべちゃ。触感も一つにまとめられたそばがもにょもにょと奇妙なハーモニーを奏でている。正直出汁の匂いがしたときは和風で固めてきたのか、こいつ、やりおる!とか思ったけど全然そんなことなかったわ。さすがにこれには負けん。

 

「今年、年越しそば食べ忘れたな、思て」

 

ああ、なるほどみたいな顔を二人はしているが俺は騙されんぞ。普通に考えてそばはそばのまま食べたほうがいい。わざわざここまで来て消化せにゃいかんお題でもなかった。というか今回もそうだが、イベント好きでこだわるくせに案外忘れてやってなかったりするんだよな。いつもあとから騒ぐんだ、こうやって。

 

 「じゃ次!あたしの食べて!」

 

これはもう食べる前から何が入ってるかはわかる。匂いが確定演出だ。カレー。間違いなくカレー。これで何か別のものが入ってますとか言われた日には俺はこいつを殴らんといけん気がする。ヤ、でもこいつのことだからカレーの他にも何かまだ入ってる可能性は否めない。心してかかろう。

かじりつくとカレーがご飯にもしみ込んでてなかなかおいしい。どうやらこれを作るためにわざわざご飯を固めに炊いて準備していたようで崩れないのも高評価だ。そしてカレーの一般的な具材がちゃんと入ってる。普通にジャガイモとか肉とか。海苔が少し相いれない雰囲気だが、これは、ありでは?

 

「カレーいつも通り作っちゃってまだまだたくさんあるから追いカレーしてもいいぞ」

 

これであと二人分の海苔巻きを食べる使命が残っていなかったら、全然追いカレーでもなんでも受けて立つところだ。それくらい、ちゃんとおいしい。これは優勝か…!?などと思ってる頃にそれは起きた。

 

「あっこぼれてきた!」

 

そう、カレーの汁が食べてる反対側からこぼれてくるのだ。ご飯が崩れない対策はできてもここまでは気が回らなかったよう。結局全員手をカレーまみれにしながら食べきることとなった。この件で評価が大きく下がってしまったことは言うまでもないだろう。

 

「次俺だな」

 

この味付けは俺が師匠と呼び慕っているT〇itterの神絵師直伝のご飯に最も合う食べ物だ。食べたことはなかったがいつか挑戦したいと思っていた。そんなタイミングに今日のこのイベント。もうやるしかないだろ。自分でもワクワクしながら控えめに口にはこぶ。俺たちにはあまりなじみない食べ物だから、すこし緊張していたのかもしれない。

 

「…っうぇ、なんだこれ!」

 

三人もすごい微妙な顔をしていた。初めての触感に眉間にしわを寄せている。あ、たぶんあいつは純粋に辛いのに耐えられなかったんだな。俺が入れたのはイカ納豆キムチ。satoponさんはめちゃくちゃおいしいって絶賛してたのに。そもそも納豆にも簡単に手を出せない俺たちにはまだハードルが高かったのだ。組み合わせというか、レシピ自体は悪くない、ハズ。

 

「最後、私ね。」

 

そういって出してきた海苔巻きは、よく見ると海苔巻きではなかった。黒い包みに隠されていて海苔巻きに擬態していたのだ。彼女がその包みを外すと中から現れたのは白い本体。それは…!

白いパンの中には生クリームとフルーツたち。チョコソースもかかっているようで。いわゆるロールサンドという奴だ。米とは違い一番俺達が食べなれている味ということもあって、今まででなくなるのが一番早かった。

 

「お前天才だな。」

 

当然、と胸を張る。彼女にヤジなんか飛ばせない。これぞ発想の勝利。米という固定観念にとらわれていた時点で俺たちの負けは確定していたんだな。南無。次回はぜひ勝ちたい所存ですね。なんかもっと俺に有利そうな勝負ねえかな。たまにはこいつらをすっきり打ち負かしてやりたいなんてことも思うが。まあ、楽しそうに笑ってるの見たら、多少は、いいかななんて思ってしまう。その時点でどうせ負けてるんだろうな。はは。