青、ときどき、白 1

この話には頼青、インキュバス、死ネタなどの要素が含まれます。尚、ハッピーエンドではないつもりです。バッドエンドと言うつもりもないが、見る人によってそう感じるかも。苦手な要素がある人は自己責任で。

 

 

インキュバスだぞ!!!!」

 

仕事終わりの僕の前に現れたのはそう自称する変質者。どこから入ったのか部屋の真ん中で仁王立ちしていた。さては疲労で幻覚でも見ているのかとベランダに出ようとすると襟首をくいッと引かれる。

「なんで無視するんだよ!」

「ええと、どなた様ですか」

インキュバスだぞ!!さっき言ったの、聞いてなかったのか?」

触れるたぐいの、つまり本物の変質者さんだということだ。逃げるだとか、助けを求めるだとか、警察を呼ぶだとかすべきことはいろいろあった。あったんだが、疲れていたんだろうか。そんな面倒なことをするより、黙らせたほうが早いと思ってしまったのだ。

「……サキュバス?」

たしかに漫画やビデオで見かける衣装によく似ている。髪の間から覗く角やふわふわ動くしっぽはコスプレにしてもよくできている。自分に興味を持たれたからなのか、人の発言が訂正できるのが楽しいのかしたり顔で指を振ってきた。

サキュバスは仲間の種族だけど、俺は男だからインキュバスなんだ」

「なんで男のとこに男が来るんだよ……。」面倒ごとが増えたとばかりにため息をついているのに、向こうは気にせず喋り倒してくる。曰く精液をもらいにきただの、帰るには条件があるだの……。

勘弁してくれ。こちとら休日出勤を乗り切った後なんだ。優しく聞いてやるだけの精神も残っておらず、徐に立ち上がる。何かを問いかけながら後ろをついてくるが、何を話されているのかよくわからなくなってきた。冷蔵庫のドアを開け一番端っこのドアポケット。1Lの紙パックを適当に押し付ける。

「ほら、せーえきだぞ。それのんでさっさとかえってくれ」

くれるのか?ありがとう!というおめでたい声を背に寝室に向かう。サキュバスだかインキュバスだか知らないが、書かれている文字を読むほどは賢くないのか。直後びちゃびちゃと音がしたのでキレながら雑巾を投げつけ寝室に閉じこもった。

 

翌日、もう鳥も鳴き終わった頃、まだ重たい体を引きずって部屋からでる。一週間分の洗濯も掃除もたまっているのだ。休んでいる暇はない。のに、そいつはいまだにそこに居座っていた。

「お、遅かったな!おはよう」