誕生日なんて元々どうでもよかった。祝われたことなんて数えるほどしかなかったし。自分の誕生が祝福されるのが当然と思えるほどの存在だと思えたことなんてない。…だけど、アンタがあの日から毎年律儀に祝ってくれるものだから今年は、なんて期待してしまうんだ。
「誕生日にもらってさぁ」
「できた彼女じゃねえか」
「クッソリア充めお幸せに爆発しろよ!」
そんな何気ないいつもの風景。各々気が済むまでラップを交わし何となく集まって駄弁る時間。
「そういえば翔湊はいつだよ、誕生日」
急に話を振られて少し驚く。いつもはほとんど聞いているだけなのに、黙ったままの翔湊を哀れに思ったのだろうか。
「…忘れた」
「おっ…ぅ」
微妙な顔をされるけど、ほんとうのことだからしょうがない。誰も祝わないのにそんなの覚えていたって意味ないから。でも、少し場をしらけさせてしまったみたいだった。
ガチャ
「おっみんな何の話してるんだ?」
「あっ透矢聞いてくれよ翔湊にすげえ雑なあしらいかたされてさ…」
彼の登場に部屋の何とも言えない空気が壊れたのを感じ、ほっとしたように先ほどのやり取りをいじっていた。
「あぁ、誕生日な!俺も……」
「それよりもう帰りたい。」
「ん?あぁ!じゃあ俺翔湊送ってくるから、またな!」
こんなふうに空気を読まないから話しかけづらいと思われるのだろうし、哀れに思われて話しかけられて、また気まずい空気になったりするんだ。別にだからと言ってどうしようとは思わないけど。
「誕生日の時、ろうそく吹き消すの好きだったなぁ」
もったいないと思っていつまでも吹き消せなくてケーキにろうが垂れてしまったこともあったと笑う。
「翔湊はどうだった?」
「さぁ」
「さぁって…」
「もう覚えてない。そんな昔のこと。誰も祝わないのに誕生日なんか覚えてたって虚しいだけだろ。」
別に何も祝うべきことなんてないし。
並んで歩いてたはずの彼の足先が見えなくなる。不審に思って振り向くとガシッと肩を掴まれた。
「俺は翔湊が生まれてきてくれてよかったって思うよ」
「こうやって、出会って話せるなんて、すごい確率なんだ。だから、翔湊がどんな人生を歩いてきてても、それが必要だったんだ。それが一つでもかけてたら俺たち会えてなかった。だから、俺は翔湊が生まれて、今日までこうやって生きてくれたのを嬉しく思うよ」
だからそんな風に言わないでくれ、と少し眉を下げて言う。
「……恥ずかしい奴だな」
そんなのが、一番最初に祝われた日。それからも毎年当然のように一番欲しいものをくれるものだから。今年も…と思ってしまうのは仕方ないと思う。
あの時よりはだいぶ他のやつらとも気軽に話せるようになったし、誕生日だから、と開封済みの袋菓子をもらうこともあった。でも一番は、あの言葉。あの人のあの言葉が、何よりも。