夕焼け色のスチール

「じゃあ、僕こっちだから」

「ああ」

 

部活のない金曜日、学校で勉強してから、二人でこの自販機のところまで一緒に帰る。相手のペースに合わせるため手押しされる自転車が二人の間に微妙な距離を作る。あの事件の日からどちらから言うでもなく続く習慣は、未だ居心地の良さと気まずさをのどちらをも内包していた。

 

「…そういえば、新田がここの缶コーヒーがおいしいんだって」

「……じゃあ、飲んでみるか?」

「あ…うん」

 

彼の体躯に背負われると小さく見えてしまうリュックから財布を探し出す姿を見て、もう少し居たい、と同じように考えてくれたのだろうかとも思う。

 

見栄を張って買ったブラックコーヒーは手の中でほかほかとその存在を主張していた。

「あ、でも缶だから自転車乗れないし今飲めないね」

「…そうだな、家に帰ってから開けるか」

 

引きとめられたのに結局ここでさよならを言うには少しもったいない気がして向かいの公園のベンチを指す。

 

「せっかくあったかいんだから、そこで座って飲んでいかない?」

 

 

特に話したいことがあったわけじゃなかった。クラスのこと、自分のこと、通学路にいた犬のこと。そんなくだらない話がスチール缶の中をうめていって、気が付けばコーヒーは飲みほしてしまっていた。どちらからともなく立ち上がってゴミ箱に放る。

「また来週」と

 

帰り道の胸のホカホカした感じは、きっとコーヒーのせいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌週もまたこの自販機の前で少し気まずい空気が流れる。今日も買う?と見上げる顔に、一緒に居る理由はなかったはずだが、つい頷き返してしまう。不慣れな経験にうまく返事ができなくてもどかしいこともあるが、それでもどこか居心地がよかった。冷めるまで掌で転がしているのを笑われるからやっと口を付ける。頬が赤くなるのはきっとまだ熱すぎたせい。

 

 

 

 

 

また翌週、その缶コーヒーはミルクティーに姿を変えていた。別に中身はなんだってよかった。でもペットボトルなら自転車でも持って帰れるから。酷く落胆した心地の自分の目の前を腕が横切る。ぴ、がたん。その長い体躯をたたんでペットボトルを取り出すも、全然立ち上がらない。少し心配して声をかけようとするとその体制のままこちらに目線をよこして

「これ、飲み終わるまで座ろう」

先程の逡巡は遠慮でもしてたのだろうか。愛おしく思えたのはきっといつもと違う目線で小さく見えたから。

 

 

「缶コーヒー、無くなってショックだったな」

「そうか?」

「だって蓋ついてるし、…それならここで話す理由ないから。」

あ、恥ずかしいこと言ったな。もう少し話して居たいなんて気持ち悪く思われるだろうか。でも、座ろうって言うなんて思ってなかったから。相手の返答に少し不安になってしまうのはきっと。そうやって言い訳をしながら、隣にいることを許されようとしてしまう。

「俺はそう思わない。」

 

「こっちの方がたくさん入ってるから、長く居れるだろう。」