月に舞う

月光の灯

ゆらゆらと揺れる炎。 あれは象徴だった。 あれに身を焼かれるのが怖かったんじゃない。あれを、昨日まで優しかったおじいさんが。今朝パンを持ってきてくれたおばちゃんが。俺たちを見捨ててしまって、俺たちが死んでしまえって、思っていて。 もうそこに、…

月が綺麗な日 3節

深い深い海からとぷんと顔を出すように微睡から解放される。するすると絡みつく水の束からひとつひとつ離れて行って体が動かせるようになって。まだ少し重さの残る体を起こすと、ぼやけた視界にだんだんピントがあう。未知の生物を拾うに当たって窓を全部塞…

月が綺麗な日 2節

まあまあ、と背を押されて椅子に座らせられる。机の上には湯気の立つスープにパン。大ぶりな野菜が入っていてコンソメの香りもいい。こんな場面じゃなかったら、非常に食欲をそそられるべきだろう。そう、隣のこの男がいなければ。「さあさあ、どうぞ」なん…

月が嗤うのは

なんでかは知らない。 こんな何年もずっとこうなのにわからないんだけど、きっとどこかの誰かは知ってるんだろうな。いや、もしかしたら俺以外はみんな知ってるかもしれない。あるところではそれが常識で、そんなことも知らない俺はとても馬鹿にされてしまう…

月は綺麗だったろうか

それは、天に瞬く星よりも、漆黒に君臨する月よりも、焔々としたごみが、輝いていた日だった。 なんだか嫌な感じがした。 いつものことだ。とうにのみ終わったカップを軽くすすいで外套を深くかぶる。幸い陽は出ていないが、これは彼を彼と認識させるための…

月が綺麗な日 1節

「は、は…っ」 普段は人気などない森の中、地を蹴る足音が一つ。しかしそのリズムは小気味良いものではなく、開いた口から漏れる息遣いは酷く苦しげだった。 うっそうと茂る枝葉の隙から時折、煌々と輝く月明かりが彼の頬を照らす。それを反射した汗は輪郭を…