最後のピース

ほんの気の迷いだった。大した決意なんてなかった。ただ、あの頃より幾分かマシになっていると。そう信じたくて、信じられなくて。その理由にできそうなものを探しに来た。行ってみれば何かわかるかも、変われるかもと、思ったんだ。

 

行ってみればあっけなかった。初めは気を使って話しかけてくれる隣の人も、次第に話の合う人とばかり喋りだす。泣きたいくらい泣きたくなくて頬が強ばるまで力を入れていた。みんないつもそうだった。うまく話せない自分となんかいてくれないし、でも声をかける勇気も度量もない。あるのは邪魔なプライドと弱っちい心だけ。話すことのない居酒屋はずいぶんと酒が進んだ。酔っぱらって、自分の思ってること、素直にさらけ出せたら、まだましだったかもしれない。乗せてきたチーク以上に染まった頬だけでは警戒を解くにも足らないんだから。

 

オフ会なんて、来なきゃよかった。

またため息を一つつく代わりにグラスを傾ける。カラン、と高い音が響きうっすいアルコールが喉を滑る。気を使ったような代わりのドリンクの提案にも適当に返してしまって。後からああしまった、と思ってもだいたい遅い。せっかく声をかけてくれた彼女も向こうに行ってしまった。次は、次こそは。あと一回だけ、頑張ってみよう。溶けて勝手に音を鳴らす氷にもどうせ無理だと言われているようで、わざとらしく瞬きをした。

 

結局、注文を済ませて戻ってきた彼女に、できるだけ素直に、できるだけ飽きられないように、でも緊張でぶっきらぼうになりながら、言葉の応酬をして。バンドに誘われたときも、私にはできないって、心の奥の誰かが言うから、つい買い言葉でやるって言っちゃったし。でもちょっと嬉しかった。私じゃなくてもよかったかもしれないけど、でも私が必要って言ってくれたから。