感謝の言葉、謝罪の言葉
昔はもっと適切に使えていた、気がする。
筆箱を忘れたら鉛筆を貸してくれた、「ありがとう」
わ、気づかないでぶつかっちゃった、「ごめんね」
そうしたら、きみは笑って、「いいよ」って
いつからか、不安で言葉を重ねるようになった。必要以上に。
ほんとうに伝わってるのかな。本当に感謝してるんだ。本当に申し訳なく思ってるよ。
そうして「いいよ」のあとにもまだ積み重なる言葉に、「はいはい」「わかったから」が返ってくるようになっていった。
うっとおしいというような陰りが混ざったその笑顔に、ああ、伝わってないんだって。
もっともっと、伝えなきゃ。本当に好きなんだよ。離れたくないんだよ。
伝えればつたえるほど、逆効果なんだって、頭ではわかっているのに。
素直に口に出すことしかできなかったから。
黙ってたほうが伝わることもある。沈黙が運ぶ意味もある。目線が語ることもある。そう気づいて、それからは、何も言わなくなってしまった。口を開いても伝わらないって諦めて。それはあなたが伝え方が下手だったからでしょう。逃げるのは甘えだって。思うけど。わかってるけど。
いつしか感謝の一つも口に出せなくなってしまった。
こわくなった。口に出して、煙たがられるのも。ただ、じっと口を噤んで、様子を窺って、場の空気を読むことに徹していたら、いつの間にか空気そのものになっちゃったみたいだ。
素直に言葉にできる子が少し、羨ましいだなんて。
あの頃の自分に笑ってすらもらえないかな。
「言葉のインフレーション」
重ねれば重ねるほど、価値は下がっていくのかな。