あの時の答え

「翔奏、よくきたな。改めて、私たちの国へようこそ」

乾杯から数十分。執心の先輩からの歯切れの悪い電話で勢いで海外まで来てしまい、なぜかいる知り合いの手厚い歓迎()からようやく解放されたころ、声をかけられた。乾杯、とジョッキを掲げられ、先ほどの彼女に無理やり持たされたアルコールのはいっていないそれを軽く合わせる。以前飲んだ時と同じよう…いやむしろそれよりも速いペースでビールを呷っているようだが、潰れて話の通じない様子ではない。

長い旅路で疲れただろう、楽しんでくれという言葉にドーモと形ばかりの返事を返すと、ところで、と声を潜めてきた。何やら本題があったらしい。

「彼を勝手に借りてしまってすまなかったな」だからこんな遠くまでわざわざ心配で飛んできたのだろう?と。

彼。視線の先にはあのメイドに無理やりアルコールを勧められている姿があった。

別にそんなつもりではない。ただ、あの電話が気になって。…いや、彼がいなければ来なかっただろうという点ではそうかもしれないけど。

ぐだぐだ考えていると勝手に話は進んでいた。

「だから代わりに私も姉さんを紹介しようと思って。私だけ知ってるのもフェアじゃないからな。」

フェアとは。別に弱みを握りたいわけではないし、こいつの場合俺の弱みを握ったと言ってどうこうするほど意地の悪いやつではないだろう。必要ないという言葉は全く耳に入れずに、人に囲まれていたところをわざわざ連れ出してくる。

先ほどの言葉は訂正しよう。潰れてはいないが、話は通じない。

「こちら、私の姉さん。Hadu Tarnart 日本では悠って名前を使っている。」

「おー!悠って呼んで!えっと、るいの友達だよな」

名前は?と笑う。そのぺかーとした笑顔は裏表のなさそうな…悪く言えば、すぐ騙されてしまいそうな。これは姉の面倒を見たい、しっかりしてほしいと願うのも理解できる。

「海堂だ。よろしく。」

姉妹は耳を寄せ合い仲睦まじそうに笑う。やっぱり。こいつは全然俺と同じ立場なんかじゃない。求めてやまないものを、当然のように享受している。別に彼女が悪いわけではない。ただのやつあたりみたいなものだ。

「…わかった、じゃあカナタって呼ぶな!」

そうこうしている間に話はまた進んでいた。妹の勝手に話を進める癖は姉譲りだったのかもしれない。

「そっか、じゃあトウヤはカナタの知り合いだったんだな。」勝手に連れてごめんな~~と笑う。わるいとおもっているのか?それ。というか

ちょっと待て、こいつどこまで話したんだ?あの夜話したことは場の雰囲気にのまれてというか、本来人に聞かせるつもりのなかったものだ。知らない間に広まっていくのも困るが、万が一彼の耳に入りでもしたらたまったものではない。…いや、どうせ気づかないだろうが。

「だって心配してたんだろ?…ほら、トウヤだって心配してるみたいだし」

視線の先にはまた彼。ただし今度はメイドに酒をすすめられてはいなかったし、それに。そちらを向いた瞬間、目が合う。彼女の口ぶりからして偶然こちらを向いたわけではないのか。こちらが自分のことを話しているだなんて気づいていない様子でヘラ、と手を振ってくる。

なんだかむず痒くなって軽く手をあげて視線を戻すと、なにか言いたげに口角をあげている様子が映る。

 「…なんだよ」

ん?と眉毛をあげて聞き返す。

「なんだ、言ってもよかったのか?」

にやにやという形容が似合うその顔を睨みつけていると後ろに衝撃が走る。

「何話してるんだ?」

先ほどの視線で気になってしまったのか、能天気にグラスを持って声をかけてくる。

「前に翔奏と話したとき姉さんの話をしていたから、姉さんを紹介していたんだ。…そうだ、翔奏も紹介してくれるか?」

全く、意地の悪い。

「はぁ…。こちら、俺の先輩の、あー…透矢さんだ。」

「ん?おう!よろしくな!」

何もわかってないという様子でそれでもぺかーと笑う。

「翔奏いきなり呼んじゃったからさ。知らない人ばかりに囲まれて大変だろうと思ってたんだけど。」

おもむろに視線を彼女たちに移しながら言う。

「知り合いがいたんだな!こんな外国で会うなんて世界は狭いんだな」

「ルイはこの前のライブの時少し会っただろ」

こいつらが押し掛けてきただけだが。

「ん……あんまし覚えてないけど、なんか…翔奏に知り合いが増えていて嬉しい。」

これからも仲良くしてやってくれ、と笑いかける横顔に言いようのない感情を覚える。俺はあんたに見てもらえさえすれば、他の世界なんてどうだっていいのに。

いつもの仄暗い思考にまた別のお気楽な声が割って入る。

「なぁ、ルイとカナタはどこで知り合ったんだ?」それに華もだろ?と首をかしげる。学校の知り合いでもないだろうし…と問いかける声はお気楽そのものであったが、瞳は少し真剣みを帯びていた。それはそうだろう。いきなり家族が知り合いを増やしてきたと言って、まぁおれはともかくあんなメイドの知り合いなど。不審にもほどがある。心配するのも無理はない。

「まあ華は葵センセの知り合いだって言うからいいけど。」

おっと、不審視されていたのはこちらだったようだ。どうしたらあの不審物持ち歩いてるような奴を信用できるのかは知らないが、口出しできたことじゃあない。ていうか、こいつたぶんオブラートに包むってことを知らないな。

しかし、なんと説明するつもりだろうか。あんなふざけた番組に一緒に出た仲ですなんて言ったら、心配されるのは交友関係だけじゃなく頭の中身までとなるのがオチだ。

 

「秘密」

「ひみつ?」

「そう、秘密だ」

 

納得がいかないといった顔をしつつもふぅんと素直に返事をする。

「まあいいや、アタシ向こう戻るな?」

「ああ。私はもう少し翔奏と話してから行くよ。」

「そっか、トウヤは?一緒に飲むか?」

「んー、じゃあ行こうかな」

口をはさむ間もなく、いってくるぞ、と手を振られるから、ああ、なんて気の抜けた返事をして背を見送る。彼らが加わったからかまた一段と盛り上がっている会話を聞き流していると唐突に言葉を投げられる。

「あの時から、ずっと考えてたんだ。」

突然すぎて何の話か全く分からない。あの時…どの時だ?こちらの顔色を読み取ったのか、ええと、と補足し始める。

「翔奏が私に聞いてきたことがあっただろう?なんで姉さんに独り立ちしてほしいなんて思えるのかって。」

あの悪魔のテレビに出ていた時か。そうだ。そんなことを聞いた記憶はある。なんだか、すっきり納得した記憶はないが。

「それで、私は、姉さんに私の知らないとこで泣いてほしくないんだって、気づいて。」

目線を合わせ続きを促す。

「私のそばで傷ついていたら、私がどうにかしてあげたいけど、もし、私の知らないところで姉さんが泣くなんてことがあったら、なんだかすごく、やりきれないから。だから姉さんには私がいなくても大丈夫になってほしい。できれば、私に頼ってほしいけど、私がいないなら、私に頼ってくれないなら、他の人に頼らないでも大丈夫でいてほしいんだ。」 

これまた堂々とした独占欲だ。人のこと言えた義理ではないのは十分承知だが。

「姉さんが日本に行ってしまってから。いろんな人の助けを得ながら生活してるって知ってから、どうしてもそう思うようになったんだ。」

ほんとうは素敵なことのはずなのにな。と眉を下げて笑う。

相手の幸せを願うならそうすべきだってわかっているのに。その感情は痛いほどわかる。

「そうか」

互いにそれ以上紡ぐ言葉も見つけられずに、ままならない感情をグラスと共に今日もまた飲み込んだ。

 

 

 

 

注意!!!!!!!

当方キルビジと酒盛りのデータがぶっ飛んでいるので、めちゃくちゃに捏造です!!!!!!!改めるつもりはありません!!!!!!また、本家ではこんなこと言わないだろ、しないだろみたいな言動も目立ちますが、これはたふぃー節!俺の世界ではこうなんだよ!をモットーに生きておりますのでご了承ください。異論は認めん。肯定的な意見しか受け取らん、以上だ!!!!!!!!

 

 よく考えると配色同じ組